認知症介護で大事なこと

認知症の「周辺症状」と「中核症状」の違いを理解する。

まずは、認知症の本を読んで認知症の「中核症状」と「周辺症状」の違いを理解してください。認知症患者の行動を「中核症状」と「周辺症状」で切り分けて考えることができるようなれば、問題行動の多くは改善できます。私は岩田先生の著書「認知症になったら真っ先に読む本」を購読しました。

 

「中核症状」は記憶障害など、脳細胞が壊れてかどうか知りませんが、脳の機能が衰えて出る症状です。これに対して「周辺症状」とは、脳の機能が衰えたために、例えば精神的に不安定になって周りに迷惑行為をすることをいいます。簡単な例を出すと、ご飯を食べたことを忘れるのが中核症状。それに対して「食べてないから、食べさせろ!」と妻に怒鳴り散らすのが「周辺症状」。基本的に、中核症状で周りが困ることは少ないが、周辺症状が出ると家族や介護者は苦労します。大事なことは、周辺症状の原因を突き止め、それを取り除くことで周辺症状は無くなることです。


信頼できる医師、ケアマネ、介護施設を見つけて信頼関係を築く。

認知症患者の介護はトイレの誘導など身体的な負担も大きいですが、先が見えないことで精神的に追い詰められます。介護者は信頼できる医師、ケアマネージャ、介護施設を見つけ、介護の相談を遠慮なくできる関係を築くことが重要です。私たちは「在宅医療・介護連携支援センター」のYさんからある介護施設を紹介してもらったことが事態を好転させる転機となりました。そこから岩田先生やケアマネージャのA氏とのつながりが生まれ、奇跡的に親父の在宅介護ができています。ただ、優秀な医師、ケアマネそして介護施設をそろえても、こちらの熱意が見えないと協力は得られません。彼らと連携して介護をおこなうためにも親族が団結して「在宅介護をする」強い意志を行動で示すことが大事だと思います。


親族からの介護協力をあてにした介護計画を立てない。

在宅介護では、デイサービスやヘルパーさんを上手に利用して生活が成り立つようにプランを立てます。ただ、それでも隙間時間はできてしまいます。そこを親族に頼った計画を立てると、いずれは無理が生じて破たんします。それぞれの生活を乱さず、無理なく続けられるプランにすることが重要です。例えば、毎週末は子供達に交代で介護を手伝ってもらうプランは無理だと思います。義務付けられると積極的な介護ができなくなりますし、来れなくなったときに相手を責める気持ちが出てくるでしょう。親族にはたまに遊びがてら来てくれると助かる程度で成り立つ介護プランでなくては在宅介護は続きません。頭を使って隙間時間を分散させた介護プランを立てる必要があります。

下の計画は、在宅介護を始めたばかりの頃の、親父が朝の散歩が必須だった時の介護プランです。昼間は比較的落ち着いていたので隙間時間をそこに充てています。父親の半日デイサービスが見つからず、1日デイサービスに代わりましたが、介護保険の限度額を少しオーバした程度で収まりました。一か月ほど経過すると周辺症状が収まり、今ではこれほど多くデイサービスは利用しなくてもよくなりました。


認知症の本を購入し、本人の症状に関係ある所だけでまとめる。

認知症には「ピック病(前頭側頭型認知症)」「レビー小体型認知症」「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」の4つのタイプに分けられます。信頼のおける医師に診断してもらい、認知症のタイプが分かったら、そのタイプに絞って認知症の本に書かれている内容をまとめましょう。特に在宅介護をしながら薬の調整を介護者がおこなう「家庭内天秤法」では、いずれの薬がどの認知症のどのような症状に効果があるか、そして副作用は何かを知っておくことは重要です。いきなり覚えきれるわけもないので、1枚にまとめておくと緊急事態のときに便利です。私も岩田先生の著書「認知症になったら真っ先に読む本」をまとめた表を作り、何度もにらめっこして薬の調整を考えました。1か月もすると、親父に効果のある薬、適した薬の量が見つかりました。



経過支援記録をつける。

「経過支援記録」とは、何時に何をしたかを記録するもの。例えば、7時に起床し、トイレ失敗(オネショ)、トイレ介護ありといった内容を書きます。私が母親に経過支援記録をつけてもらった目的は以下のとおりです。

  • 薬を憶えてもらうため。名前ではなく、朝、昼、夕、就寝前にどのような効果をもたらす薬を親父に投与しているかをまずは憶えてもらい、最終的には母親の判断で薬の調整ができるようになってもらうため
  • 薬を調整した効果がどのように出たかを知るため。薬を減らしても完全に体から抜けきるのには2週間を要するため、その効果を見定めるには日々の記録を付けて見返すしかない。
  • 周辺症状の回復具合を見るため。周辺症状は環境因子の影響を強く受ける。従って自宅で生活を続けると周辺症状は取れてくる。その回復具合を知るためには、周辺症状の記録が必要となる。
  • 介護者である母親と、私たち親族との連絡帳の役割。頻回に母親と電話連絡を取るようにはするが、中々電話だけでは親父の状況をつかみきれない。
  • 親父との思いでを作って欲しい願いから。認知症は進行性の病気であり、いつかは母親と親父は一緒に住めなくなる。親父が施設に入居し、そして終末を迎えたときに母親がこれを見返して自分を慰める時がくるだろう。

各家庭の出費などの支援状況を記録し、共有する。

在宅介護を始めると、何かと出費がかさみます。初めのうちは善意が勝って不平等感による軋轢は生じませんが、徐々に出てきます。しかも、どの家庭が何にいくら使った、いついつ立ち寄ったなどは忘れてしまいます。そこで、出費と両親の家へ介護支援目的で立ち寄った記録を取り、共有することにしました。ただし、負担の再分配はおこなっていません。あくまでもお互いの出費などの負担状況を見える化するのが目的です。


医師の診察を受けに行くときは、事前に質問事項を作っておく。

認知症で初めて医者に診察をお願いするときは、色々と聞きたい事があるはずです。しかしながら、いざ医者を目の前にして診察を受けると、聞きたい事の半分も聞けないと思います。これは医師が自分のテリトリーへ話を誘導し、質問をすり替えて説明をすることが多いことと、はぐらかされた説明を長時間聞かされるために、本当に聞きたい内容を再質問する気力がなくなるためです。また、忘れてしまう質問もあるでしょう。こういったことを防ぐために、質問事項を用意し、その場で回答を書くようにしました。

精神病院での質問事項です。質問が整理されているため、結果的に診察時間も短くてすみます。 


認知症患者にウソはついても良い。

認知症患者にウソをついても良いのか?と口論するときがありますが、個人的な意見を言うと「良い」と思います(認知症の進行具合にもよるかと思いますが)。本当のことを言っても誰も幸せになりません。例えば、認知症の親父が亡くなったお婆さんに会いたいと言ったことがありました。「お婆さんはもう亡くなったよ」と真実を伝えると、親父は不穏になります。泣き始めたり、時には「そんなはずない」と怒り、食い下がり周囲を困らせます。そりゃ、生きていると思っていたお婆さんが突然死んだと言われたら、混乱しますよね?認知症患者との会話は、真実を伝えることを目的にしてはいけないと思います。私は親父を安心させることを目的に会話をしています。ウソをつきたくないときは、話をすり替えるようししています。

徘徊対策で使った外カギ。

在宅介護で最も困る周辺症状の1つに「徘徊」があります。最近は徘徊で事故を起こすと、介護者に責任が及ぶようです。そこで、頼りになるのが外カギや2重ロックです。ホームセンターに売っていたいくつかを試しましたが、お勧めを紹介しておきます。

1. 日本ロックサービス F-618(約3000円)

玄関の外カギに使いました。

2. 日中製作所 ヒナカS/Sまど守りくん窓の鍵(約2000円)

勝手口の鍵のクレセントが回らないようにしました。これが見つからなかったため、親父は2、3回勝手口から徘徊に出かけました。



認知症に関わらず、医師から病名を告げられたら、「症状」「検査方法」「治療方法」を調べ、まとめておく。

認知症に関わらず、医師から病名を告げられたら「症状」「検査方法」「治療方法」に分けて整理しましょう。このようにすると、症状からどの様な検査が行われるか予想でき、その結果次第でどのような治療が行われるのかわかるので、納得のいかない検査方法や治療方法を提案されたときに意見を述べることができます。多くの医者はルーチンワークに乗せようとしますが、治療方法を医者任せにしないことが大事です。親父はルーチンワークをつないだ結果、前立腺肥大の手術入院から精神病院へ行くことになりました。

母親が腸閉塞と診断されたときに作ったメモ書きです。インターネットで調べればすぐに作れます。


5感を矯正する(補聴器、眼鏡)

もし、認知症にかかる前から聴覚や視覚など5感に衰えを感じていたら、補聴器やメガネで矯正することをお勧めします。私の父親は元々左耳が聞こえ難いのですが、認知症になってからは、聞こえ難さから自分の置かれている環境がわからなくなり、不穏になることが良くありました。また、認知症になると聞き間違えを正しいと思いおこむのも厄介です。正常な人ならば、例えば「○○さんが言った」を「○○さんが死んだ」と聞こえたとしても、聞き間違えだと思うでしょうが、認知症患者は死んだと思い込みます。目が不自由な場合に生じる見間違いも然りです。壁のシミを顔と見間違えると、それを訂正するのに骨が折れます。

少し高価でしたが補聴器を付けると、その効果には驚かされました。何より、普通に会話のやりとりができるようになりました。父親も自分が以前と同じ環境で生活していることを、聴覚の矯正でしっかりとわかるようになったためか、不穏な状態になることが劇的に少なくなりました。



認知症を受け入れる。

最後になりますが、認知症を受け入れることが在宅介護で最も大事なことになります。でも、凄く難しい。「受け入れる」とは「諦める」とは全く違います。極端に言うと、諦めたならば、薬づけにして施設にあずければ良い。説明するのも難しいのですが、親父の介護を続けていると、問題行動に「腹を立てる」のではなく、自然に「悲しい気持ち」が湧いてくるようになりました。母親は「一歩引いて問題行動を見れるようになった」と表現していました。この頃から母親は、「お父さんが頑張ってるから電話で話をしてあげて」と以前のSOSの電話から変わりました。一生治らない障害を持った人や、障害を持った子供を持つ親の気持ちと近い気がします。